私は流魂街出身。しかも、数の大きい地区。つまりは、治安が良くない町で育った。
そこでは力が全て。当然ながら、女子供は虐げられる世界。子供だった私は、女でもあるわけで、よく狙われたものだ。
だけど、幸い、私には霊力があった。それを利用すれば、何とか逃げ切ることができた。・・・そう、逃げることはできたのだ。決して、勝ったことはない。
そんな自分が情けなくて、こんな町が嫌になって、私は死神を目指した。そして、もっと強くなりたいと常に願い続ける私は、念願の十一番隊に所属することができた。
女に十一番隊が務まるのか、そんな嘲笑も聞こえた。だけど、真央霊術院でも流魂街出身ってだけで差別されることもあったし、もう慣れていた。
それに何より、流魂街出身でもある更木隊長が言ってくださったのだ、「強ければ、それでいい」と。その後ろには、笑顔で頷く草鹿副隊長の御姿もあった。同じ女性として応援していただいた、そんな気がした。
だから、私は隊長、副隊長のお役に立つためにも、もっと上を目指していきたい。そして、もっと強くなり、戦いの中で・・・・・・、再び歯を折るんだ!
「なぜ、そうなる。」
私の頭をはたきながら、冷静に突っ込みを入れたのは真央霊術院からの親友、だ。
は実力もあり、内面も優れた人物で、私のことも差別せずに付き合ってくれた1人。残念ながら、所属する隊は違うけれど、休みの日には、時々こうして会っている。
も強いんだから、十一番隊でやっていけるとは思うけど。は強さを目指すより、和気藹々とやっていきたいらしい。だから、の所属は十三番隊。たしかに、あそこは私も好きな雰囲気だ。でも、それ以上に・・・・・・。
「だってー、また阿近さんにお会いしたいんだもんっ。」
「だからって、その発想は絶対おかしいわよ。大体、歯の総数は限られてるのよ?」
十二番隊の阿近さん。十二番隊と言えば、私との間の隊。だからと言って、隊舎がご近所さんというわけではない。だけど、私は必ず、十三番隊へ向かうときは、十二番隊の前を通るようにしている。それぐらい、阿近さんに会いたいんだ。
「でも、阿近さんに会うなんて、それぐらいしか方法ないよ?」
「もう少し考えたら?例えば・・・・・・、そうね。技術開発局に、何か聞きに行くとか。」
「何か・・・・・・。」
「義歯以外にも、何を作ってもらえるのか、とか聞きに行けば?」
「あぁ、なるほど!ありがとう、!」
「うーん・・・・・・。あまり、あそこに行くのはお勧めできないんだけど・・・・・・。」
そんなの言葉は無視して、次の休みに、私は早速十二番隊へ向かった。
今日も、と会う約束をしてるから、早めに済ませないと。
「すみませーん。」
私が訪ねると、中から見知らぬ人が出てきた。・・・残念ながら、阿近さんではなかったようだ。
「はい、何か?」
「私、十一番隊のと申します。ご存知の通り、十一番隊は戦いに赴くことが多いので、怪我をしてしまう機会も多々あります。」
「はぁ。」
「それで、以前、技術開発局の阿近さんに義歯を作っていただいたことがあり、大変感謝しております。また何かありましたら、技術開発局の御力をお借りしたいのですが、例えば他にはどのようなものを直していただけますか?」
「私たちの力を・・・・・・?!」
「はい。ご迷惑でなければ、ですが・・・・・・。」
「いえ、それぐらい構いませんよ。そうですね・・・・・・、骨の再生を助ける物質もあるので、骨折時には便利ですよ。」
「そんな物もあるんですか!」
さっきまで、少し気怠そうに対応していたけれど、急に態度が変わった。・・・・・・やっぱり、技術開発局の人たちは、自分たちの能力とかに誇りを持っているんだろう。それが役に立つのなら、という感じで嬉しそうに話してくれた。
「それから、斬魄刀も直せます。」
「へぇー、やはりすごいですね、技術開発局は!」
「いえいえ。」
「何だネ、実験希望者かネ?」
「えっ・・・・・・。」
私が感嘆の声をあげていると、特徴的な御声が聞こえた。まさか、これって・・・・・・。
同様に、私と話していた十二番隊の隊員さんも、しばらく固まっていたけど、少しして、ようやくその方の御名前を口にした。
「く、涅隊長!!」
「私たちの技術に注目するとは、なかなかイイ目を持っているじゃないか。」
「え、え〜っと・・・・・・。」
「どうだネ、研究材料になってみるかネ?」
あれ・・・・・・。何だか、危ない展開になってるような・・・・・・。
「す、すみません!この後、用事がありますので・・・・・・!失礼します!!」
私は急いで、その場を立ち去った。
・・・・・・結局。阿近さんにはお会いできなかった。残念。
だからと言って、あのまま、あそこに居続けることはできなかった。まだまだ死ぬわけにはいかないし。
阿近さんなら、あんなこと言わないんだろうな。・・・・・・いや、阿近さんも同じ研究者なら、そんなことを言うのかしら。私を研究材料に、って・・・・・・。あれ、阿近さんに言われるところを想像すると、そんなに危ない感じはしない。・・・・・・ある意味、イケナイ感じはするけども。
「やっぱり、いた。何してるのよ、。」
そんな変な妄想をしかかっていると、急に声をかけられた。
一瞬、十二番隊の人に追いつかれたのかとも思って、かなり焦ったけど、その声はよく知ったものだった。
振り向き、それを確認すると、一層私は落ち着いた。
「あ、。・・・・・・ごめんね。ちょっと、十二番隊に行ってたから。」
「それはそうだと思ってたけど、なんでちょっと息切れしてるのよ。」
「いや〜、実は・・・・・・。」
私は、さっきまでの出来事を簡単に話した。すると、が大きな溜め息を吐いた。
「だから、言ったのよ。あそこに行かせたくない、って。あそこは危険な人が多いんだから。阿近って人も、きっとそうよ。」
は私を心配して、そう言ってくれた。ありがとう。でも、違うの。阿近さんは違うの。
私が阿近さんに初めてお会いしたのは、以前、義歯を作っていただいた時だ。
同じ十一番隊の人たちには、やはり女だから怪我したのだ、と笑われた。治療してくれた四番隊の人たちには、女の子が歯を折るなんて駄目じゃない、と言ってもらった。
四番隊の人たちは、決して悪口じゃない。だけど、私はその両方が嫌だった。だって、また女として見縊られてると感じたから。
そんな中、義歯を作ってくださった阿近さんだけは違った。
「・・・・・・っと、これで完了だ。」
「え?!もう終わりですか?」
「ああ。何か不具合はあるか?」
「いえ・・・・・・。」
「噛み合わせも問題無えか?」
「はい、大丈夫です。」
「そうか。・・・・・・もし気になることがあったら、いつでも来てくれ。」
「あ、はいっ!ありがとうございます。」
「じゃあ、今度は気を付けろよ。」
「は、はい!お世話になりました、ありがとうございます!」
阿近さんと言葉を交わしたのは、それだけだった。女なんだから気を付けろとも、何も言われなかった。
私には、そのことがとても大きかった。
それをに話しても、いつもわかってもらえない。
「それって、性別のことも考えてないぐらい、危ない人たちってだけじゃないの?それに、女として見てもらってない、ってことになるのよ?」
「う・・・・・・。で、でも!危ない人ではないもん!!ちゃんと、気を付けろとは言ってくださったし、優しい人なんだよ?」
「それだけで、判断できないでしょ。」
「できる!」
会話としては、それだけだった。でも、今でも繋がりはある。・・・そう、この義歯だ。
これを使っていて、わかる。あのとき、阿近さんは、いつでも来てくれ、と仰ったけど、私が再びお世話になることはなかった。なぜなら、この義歯が全く問題なく、むしろ以前よりも噛みやすいとさえ思ってしまう程だったからだ。
「・・・・・・それが優しさと、どう関係があるのよ。」
「だから!使う人の気持ちを考えてなきゃ、ここまで使いやすい義歯は作れない、ってこと!」
「それは、ただ技術者として腕が立派なだけじゃないの?」
この説明でも、は納得してくれない。・・・・・・わかった。
「もう、いいよ。阿近さんの良さは、私だけが知っていれば。」
「はいはい・・・・・・。でも、もう無茶はしないでよね?」
「うん。」
「それより、今日はどこ行く?実は、気になるお店があるんだけど。」
「え、どこどこー?」
そうして、その日もと楽しく過ごし、ゆっくり休んだ。
この時間があってこそ、私はまた頑張っていける。
今日は、流魂街に虚が出たということで、私もそこへ向かった。
うちの隊は、基本的に戦いたい人ばかりだから、いつも取り合いになる。でも、今日の虚は霊圧が小さいとかで、みんな嫌がった。・・・相手が強いほど、楽しいって思う人も多いからね。
私としては、実戦を多く積みたいから、こんな時がチャンス。私より少し力の無い人たちと組み、任務へ赴く。
「あれか!」
その中の1人がそう叫ぶと、虚が私たちに気が付いて、こちらに近寄って来た。
・・・・・・あれ?何かおかしい。たしかに、近付いてくれば、その分、霊圧も強く感じるだろうけど・・・・・・。そうじゃない。なぜか、もっと大きくなっているような・・・・・・。
「おお、死神だ・・・!美味そうな奴らが来た。」
私たちの目の前に立った時には、さらに強大な霊圧を感じた。
「こ、これは・・・・・・?!」
「もしかして、俺が弱いとでも思っていたのか?ハーハッハッハ、残念だったな!俺は、霊圧を自在にコントロールできる能力があるんだよ!」
くっ、しまった!正直、私たちだけでは厳しい。
「ここは私たちが時間を稼ぐ。だから、アンタは隊へ戻って応援を!」
「馬鹿言え!女を残して行けるか!」
「女の私より、男のアンタの方が走るの速いでしょ?だったら、そっちの方が効率的。だから、早く行って!」
「・・・・・・ちっ。死ぬなよ。」
「当然!」
残った数人と私で、何とかその虚とやり合った。でも、さっきも言ったけど、このメンバーは私より弱い人が多い。やっぱり、かなり・・・・・・。
そんなことを考えていると、私も虚の攻撃を受けてしまい、意識を失った。
次に、目を開けると、そこは建物の中のようだった。
「・・・・・・目、覚めたか?」
「・・・・・・・・・・・・。・・・・・・阿近さん?」
あれ、まさか幻?もしかして、私は天国みたいな所へ来てしまったの・・・・・・?
「俺の名前、知ってるのか。」
「え、えぇ。だって、以前、義歯を作っていただきましたので。そう、あの時は本当にお世話に・・・・・・。」
お世話になりました、そう言いながら、礼をしようと体を動かすと、全身に痛みが走った。
「うっ!!」
「おい、無理するな。」
・・・痛み?痛みを感じるってことは、私・・・・・・・死んでない?!
「あ、あの!私、どうして、ここに・・・・・・。」
「そうだな・・・・・・。」
それから、阿近さんは事情を説明してくださった。
まず、私たちが対峙した虚を倒しに、我が隊の斑目三席が来てくださったそうだ。そして、私たちの怪我を治療するために四番隊の方々が、さらには虚の情報を聞きつけた十二番隊の方々も踏査しようと、そこへ駆け付けたらしい。
その中で、前線で戦っていた私は特に重症だったらしく、四番隊の方の治療を受けた後、この十二番隊の隊舎へ運んでいただいたみたいだ。
「じゃあ、今は、どのような治療を・・・・・・?」
「あちこちの骨が粉々になっていたからな。今は、骨の再生を助ける物質を入れてある。」
そういえば、そんな物も技術開発局にはあったんだった。まさか、本当に自分が使うことになるとは。
「そうですか・・・・・・。それでは、またお世話になりました。ありがとうございます。」
「あくまで再生を助けるだけだから、しばらく安静にしてもらう必要はあるけどな。」
「・・・・・・ということは、しばらくここにお邪魔させていただくことになるんでしょうか?」
「それで良ければ、な。」
「私は全然!・・・・・・では、宜しくお願いします。」
「と言われても、既に薬は投与してあるし、俺の役目はほぼ無えんだけど。まァ、何かあったら、声をかけてくれ。」
「はい、ありがとうございます。」
まさか、しばらくの間、技術開発局で過ごすことができるなんて!まるで、夢のようだ!!には、きっと・・・・・・。
そう考えたとき、私は先日の出来事を思い出した。
「あ、そういえば。」
「どうした?」
「実は以前、涅隊長に研究材料になってみないかと提案していただいたことがあるんですけど・・・・・・。」
「なりてえのか?」
「いえいえ、滅相もございません!私に、それほどの価値はありませんから!」
「素直に言っていいぞ、なりたくねえって。」
「・・・・・・はい、なりたくないんです。なので、もし涅隊長がそのことを覚えていらっしゃって、私がここに居るとお気付きになったら、どうしたものかと思いまして。」
「そういうことなら、問題無え。こっちも、隊長への対応は慣れてるからな。」
「なるほど。・・・・・・こういう言い方は、少し語弊があるかも知れませんけど、技術開発局の方々でも涅隊長に振り回されることがあるんですね。」
「それは十一番隊も同じだろ。」
「・・・・・・たしかに。それでも、隊長や副隊長について行きたい、あるいは尊敬している、そういうことですね。」
「特に、十一番隊も十二番隊も、何かに特化した隊だからだろうな。」
「そうですね。」
きっと、情報として、面倒を見ることになってしまった人物の所属する隊を把握していらっしゃった、それだけのことだろう。それでも、自分のことを阿近さんに言っていただけたのは、すごく嬉しかった。しかも、十二番隊と十一番隊が似たようなもの、なんて言っていただいて、とても親近感が湧いた。
「それでは、安心して休ませてもらいますね。ちなみに、阿近さんはどこにいらっしゃるんですか?」
「一応、隊長のこともあるから、ここに居るけど、気になるか?」
「い、いえ!いいんですか?お仕事とかは・・・・・・。」
「俺たちは協力して何かを研究することもあるけど、基本は個人作業だからな。それに、俺がここに居ることは知らせてあるし、特に問題無えよ。」
「そうなんですか。このお部屋は、そういう個人作業とかに使われる所なんですか?」
「そうだな。隊長以外は共同で、ここを使うようにしている。」
「それで、ここは安全・・・・・・って言ったら、おかしいですけど、とにかく涅隊長はいらっしゃらない、ということなんですね。・・・・・・そういえば、うちの隊も隊長のお部屋ってあるはずですけど、そもそも隊舎にいらっしゃらないことが多いので、知らないですね。」
「うちも研究とかで居ねえことが多いけどな。」
「ハハハ、やっぱり少し似ていますね。・・・・・・では、阿近さんの作業を邪魔してもいけませんし、そろそろ大人しくしてます。」
「別に俺のことは気にしねえでいいから、何かあったらすぐに声をかけろよ?」
「あ、はい。ありがとうございます。」
やっぱり、阿近さんはお優しい。それが、こんなにも身近に感じられて、かなりドキドキしてしまっている。休もうにも休めない気分だ。しかも、少し目を動かせば、作業をしている阿近さんの後ろ姿が見える。余計に緊張しちゃうよね・・・!
でも、さっきまでの会話とか、今のこの光景とか、考えただけで、ほわほわとした、すごく幸せな気持ちにもなる。
それが眠気を誘い、いつの間にか、私はスヤスヤと寝入っていた。
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ビックリした・・・!!実は、この後もかなり書いてたんですけど、途中で「長っ!!(滝汗」と気付いたので、ここで一旦区切らせてもらいました(笑)。
というわけで、かなり無理矢理区切ったので、特に意味があるわけじゃないです(苦笑)。この後、大きな展開とか無いです。すみません;;
この話を書き始めたきっかけは、キャラブックの『UNMASKED』で、阿近さんが義歯を作っていらっしゃる、と知ったことから。そのとき、私は「マジで?!阿近さんに作ってもらいたい!!・・・・・・って、それは違うやろ(笑」となったので、実際に書いてみました。
そしたら、既述のとおり、思いの外、長々と書いてしまいまして・・・(汗)。もし良かったら、後編にもお付き合いいただければ、と思います。・・・ってか、阿近夢のニーズってあるんだろうか。
('11/08/08)