あれから、週に2〜3度はと電話することが習慣化した。
突然が来たのには驚いたが。おかげで、いい気分転換になっている。
・・・・・・いや、俺だって会えないことに何も思っていないわけじゃなかったからな。

ただ、場所選びには毎度苦労する。
個室でもない自室は論外だ。かと言って、他のやつらもいる共有スペースを使うわけにもいかず、外に行くことが多い。
それでも、見つかる時は見つかってしまうものなんだろう。人が集まっている合宿所なのだから仕方ない。
とは言え。



「昨日、こいつが何してたか知ってるかー?」

「何って・・・・・・ナニでもしてたんか?」

「いや、その前段階ってとこだな!」

「てめぇら、いい加減にしやがれ!毎日、ゲームかくだらねえ話ばっかしやがって・・・・・・!!」

「何ムキになってんねん。」

「お前だって、こいつが何してたか気になるだろ?」

「興味ねえ!」

「俺も別に興味はないんやけど。そこまで言うってことは、なんかおもろいことでもあるんやろ?」

「そうなんだよ!こいつ、女と電話してやがったんだぜー?!」



選りにも選って、切原に聞かれていたとは・・・・・・。
こんなことなら、最初から自室で電話していれば良かったのかもしれない。・・・・・・いや、それはそれで面倒だな。



「電話やったら、相手が女かわからんやろ。」

「だって、『好きだ』とか『愛してるー』とか言ってやがったし。」

「言ってねえよ!」

「ってことは、女と電話しとったんは事実なんや。」



財前に言われ、口をつぐむ。
・・・・・・まさか、切原ごときに鎌をかけられるとは。



「けど、それらしいことは言ってたぜ、マジで。」

「へぇ〜?意外やな。」

「なんか、たき?とかいう奴と仲良くしすぎなんじゃねーか、って怒ったりしてたしな。」



たしかに、昨晩は滝さんのことでとやかく言ってしまった。
だが、にも問題がある。「まだ滝先輩たちだって、合宿に呼ばれる可能性あるよね?」だとか「滝先輩の実力なら、最初から呼ばれていいはずなのに」だとか、口を開けば滝さんのことばかり。
大体、普段からもは妙に滝さんに懐いているところがある。正レギュラーから外れた後は、マネージャー業を手伝うことも多いようだから、当然なのかもしれないが。
それでも、俺と電話をしている時に、わざわざ話す必要はねえだろ。



「わかりやすい嫉妬やな。」



そうだよ、悪いか。
けど、にはわかりやすくなかったらしく、「たしかに馴れ合いは良くないかもしれないけど、部の仲間同士、協力し合うことは大事でしょ?」とか「あ、でも。同い年ならともかく、先輩に対しては失礼か」とか、的外れなことを言っていた。



「そんなに心配なら、今日も電話した方がいいんじゃねぇーの?」

「うるさい。放っておけ。」

「俺らに遠慮せず、ここで堂々と電話してくれていいんだぜ?なぁ!」

「俺はどっちでも。」

「・・・・・・勝手にしろ。」



ニヤついている切原。片手に携帯を持っている財前。顔を背けた海堂。
あからさまに興味津々の切原にも苛つくが、興味の無い振りをしてこちらの様子を窺っている財前、海堂も鬱陶しい。
こんな奴らがいる場所で、と話してたまるか。



「するわけねぇだろ。」

「何だよー。俺たちに聞かれちゃマズイことでもあんのかー?」



今の切原を見ていると、これから先、後を尾けてでも聞こうとするんじゃないかとさえ思えてくる。
・・・・・・そうか。



「わかった。そこまで言うなら、させてもらう。」

「おう、いいぜ!」



逆に、何度かここで電話しておけば、少なくとも外でこいつらを気にする必要は薄れるだろう。
あるいは、何度か聞いている内、こいつらも飽きてくるはずだ。
いつもと違い、メールは入れず、すぐ電話をかけた。



『――もしもし?日吉?』

「悪い。今、大丈夫か?」

『うん、平気だけど・・・・・・どうかした?』

「部屋の奴らがかけていいとうるさくてな。」

『・・・・・・なるほど。そういうことね?』

「ああ。」



は俺の言葉を聞き、状況を飲み込んだらしい。さすがだな。



『部屋は誰と一緒なんだっけ?』

「青学の海堂と立海の切原、それから四天宝寺の財前だ。」

『次期部長の集まりってことなのかな?』

「さあ?そうなのか?」

「何だって?」



俺の疑問に対し、切原がやや小声でそう返した。
お前には聞いてねえんだよ、とでも言いたいところだが、今は我慢だ。
それに、直前に自分たちの名前も出ていたんだから気になっても仕方ねえ。そう思っておいてやろう。



「ここは次期部長が集まった部屋なのか、だと。」

「あー・・・・・・そうか。そうなんじゃね?」

「俺らを知ってるってことは、テニス部関係なんや?」

「マネージャーじゃねえのか。」

「意外と詳しいやん、海堂。」

「別に・・・・・・うちの乾先輩が話しているのを思い出しただけだ。」

「そういえば、柳先輩もそんなこと言ってたっけな。」

「へぇー。」



乾さんも柳さんも、一体どんな情報を集めてるんだ・・・・・・。
たしかに、あの人たちはデータを駆使するプレイスタイルではあるが、マネージャーの情報まで必要になるか?
そんなことを今ここにいる奴らに言っても仕方ねえ。とりあえず、との話に戻ることにした。



「切原は、そうなんじゃねえか、と言ってる。」

『うん、たぶん、そうだよ。・・・・・・何なら、ここで来年勝つのはうちだ、って宣言しとく?』

「必要ない。」

『言わなくても勝つ、ってこと?』

「当然だ。」

『さすが!頼りにしてます、日吉部長。』

「まだ早えよ。」

『そうだね。まずは、目の前のU-17合宿か。』

「ああ。」



この間にも、切原は「つまんねえ」「もっと面白い話しろって!」などと言っていたが、それらは一切無視した。
これで、そろそろ飽きてくるだろうと思っていたが、今度は財前が口を開いた。
・・・・・・こいつが話し出すと、嫌な予感しかしない。



「滝さんのこと、聞いといた方がええんちゃうん?」



・・・・・・ほらな。
その言葉に、切原も便乗し始める。



「おう、そうだ、そうだ!たき?って奴のこと、聞かなきゃなぁ〜?・・・・・・つーか、財前、お前そのたきって奴、知ってたのか?」

「いや。うちの先輩、氷帝に従兄弟がおるらしいから、今メールで聞いてみたんやけど。3年のテニス部員らしいわ。」



・・・・・・忍足さんか。余計なことを・・・・・・。



『え?何か、滝先輩の話題になってる??』



そして、もその名に反応し出す。



『みんなも知ってるってことは・・・・・・やっぱり滝先輩って全国区の実力なんだね!ってことは、合宿に呼ばれるのも、もうそろそろかな?寂しいけど・・・・・・って、これは馴れ合いじゃないからね?』

「・・・・・・わかってる。」



ただ、それだけを返すと、切原が「もっと何かあるだろー?」などと騒いでいた。
その声が聞こえたのか、俺の声のトーンを気にしたのか、あるいは、その両方かで、は苦笑を漏らした。



『・・・・・・そろそろ切った方がいいよね?私も寝るから、って言っておいて。』

「わかった。」

『みんなに、ありがとう、とも伝えておいて。』

「なんでだよ?」

『一応電話させてもらえたんだから。』

「・・・・・・わかった。」

『日吉も、電話してくれてありがとうね!じゃあ、おやすみ。』

「ああ、またな。」



全く・・・・・・。「ありがとう」の一言で、俺の気分を変えるとは。お前には本当敵わない。
・・・・・・残念ながら、目の前の奴らの所為で、そう長くは保たねえが。



「もう終わりかよ!つまんねー!」

「切原の言うとおりやな。さすがに短すぎるやろ。」

「いつも、これぐらいだ。」

「切原が聞いたときもそうやったん?」

「・・・・・・そういや、そんなに長くはなかったな。でも!つまんねー!」

「いい加減にしろ、お前ら!」

「何だよ、海堂!お前だって気になってただろうが!」



切原と海堂の言い合いが始まりかけた。



「そういえば、お前らに伝言があった。」

「ん?」

「電話をさせてもらったことに礼を言っていた。」

「お前に似合わず、いい子じゃん!」

「たしかに。ちょっと会うてみたなったわ。」

「こっちこそ、迷惑をかけた、と伝えといてくれ。」



のおかげで、何とか面倒な言い合いは避けることができた。
・・・・・・が、こいつらの反応が気に食わねえ。



「二人とも、マネージャーなんやったら、会うたことあるんちゃうん?」

「いや、正直、あんま覚えてねえんだよなー!海堂は?」

「試合には関係ないからな。覚えていない。」

「ふーん・・・・・・。まあ、同じ部活なんやし、機会はいくらでもあるか。」

「だな!次はよく見とかねえと!」



が来た時、本当にこいつらに会わなくてよかった。
・・・・・・もう二度と来ないよう、再度言っておこう。









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相変わらず、誕生日とは関係ないですが・・・去年の続きですね。
とにかく、205号室のワチャワチャ感を書きたい!と思いまして(笑)。

あとは、前回のお話ではっきりと書いていない日吉くんの嫉妬心も入れたいな、と・・・。
というわけで、楽しく書きましたが、オチはないですね!(滝汗)

('17/12/05)