・・・ルフィ・・・・・・。
今、私の後ろには、もう船は見えなくなっている。その間、ルフィに会うことはなかった。
一体、どこにいるんだろう・・・。島では何か騒ぎがあった、という様子もないから、大丈夫だとは思うんだけど・・・。それに、万が一、何かが起きたとしても、ルフィなら大丈夫だ。
でも・・・。やっぱり、心配なのは心配だし・・・。
そう思いながら、急ぎ足で辺りをキョロキョロと見渡す。すると、ある家の前でふと呼び止められた。
「そこの。」
「・・・え?私、ですか?」
その家の前には、少し腰の曲がった、杖を突いたお爺さんがいた。そのお爺さんは、私と目が合うと、ゆっくり頷いた。
「そう、お前さんじゃ。お前さん、麦わらの一味じゃろ?」
「え、えぇ・・・。そうですけど・・・。」
「船長を探しとるんじゃろう?」
「あ、はい!何かご存知ですか?」
「あぁ。さっきまで、ここにおったからのう。」
「そうだったんですか・・・。ありがとうございました、それでは・・・。」
そう言って、その場を立ち去ろうとすると、また呼び止められてしまった。
「待ちなさい。船長なら、ここに戻って来る。」
「え?そうなんですか・・・?」
「その間、家にあがって、待ってなさい。船長にも話したことを、お前さんにも話してやろう。」
「・・・いいんですか?」
「遠慮することはない。わしも元海賊。先輩の話は聞いておくもんじゃ。」
お爺さんは、優しそうなと言うよりも、茶目っ気のある感じで笑った。私はそれを見て安心し、お言葉に甘えて上がらせてもらうことにした。
「お邪魔します。」
「まぁ、そこの椅子にでも座っておきなさい。今、お茶を出すから・・・。」
「あ、いえ。お構いなく・・・。」
私がそう言ったにも関わらず、お爺さんはお茶とお菓子を用意してくれて、私の向かい側に腰掛けた。
「ありがとうございます。」
「いんや。どうせ、話が長くなるからのう・・・。」
お茶をすすりながら、お爺さんはゆっくりと話し出した。
「さっきも言うたように・・・この話はお前さんとこの船長にも話したんじゃが・・・。まずは、どこから話そうかのう?・・・・・・・・・先にお前さんらのことを話した方がよいじゃろうな。」
「私たちのこと、ですか?」
「うむ・・・。お前さんと船長のことだ。」
「私とルフィ・・・。」
私たちの話というのだから、てっきり一味全員の話だと思っていたら・・・。その中でも、私とルフィだけだったらしい。一体何の話なのかと疑問に感じていると・・・。
「わしは、お前さんらが島に入って来るところを見ておったんじゃ。・・・その様子から思うに、お前さんと船長の仲は、ただの仲間という関係ではないんじゃろう?」
「・・・・・・。」
まさか、みんなだけでなく、このお爺さんにまで見られていたなんて・・・。さすがに恥ずかしくて、私は、ただ黙っていた。
「そして、それを今後も続けていくつもりじゃろ?」
「・・・それが一体・・・・・・。」
なんで、そんなことを初対面のお爺さんに言わなければならないのか。私だって、羞恥の念にかられないわけじゃない。
だけど、そのお爺さんは、何も私にルフィとの永遠の愛を誓わせようなどと思っていたのではなく・・・。むしろ、全く逆のことをさせようとした。
「悪いことは言わん。お前さんは、その一味を抜けた方がいい。」
「ど、どうしてですか?!」
「どうしても一味に残りたいんじゃったら、船長と恋仲でいるのを止めなさい。」
「そんな・・・!」
「わしだって、お前さんらを苦しめたくて、そう言うてるわけじゃあない。・・・ここからは、わし自身が経験した話じゃが・・・・・・。」
そう言って、お爺さんが今度は悲しそうに、お爺さんの過去を語り始めた。
「わしも海賊をやっとった頃、仲間に大切な人がおった。そして・・・、向こうもそう思ってくれとった。そう、わしらも愛し合っとったんじゃ・・・。」
「・・・・・・。」
「じゃが・・・。愛しい人は、自分の命以上に守りたいと思うこともある。それ故に、判断が鈍くなってしまうことも・・・。そうして、わしはあのとき・・・彼女を守れんかった・・・。だから、わしは海賊をやめ、ここにおる。」
「・・・あの・・・心配してくださるのは、大変嬉しいんですが・・・。」
お爺さんは、あまり詳しくは話さなかった。・・・たぶん、それほど思い出すのがつらかったのだと思う。
だけど・・・。私たちにも同じ状況が起こるとは言い切れないし・・・。それに、私は今、ルフィたちと離れてしまうことの方がよっぽどつらい。
そう思っていると、お爺さんが今まで見たことのない、強い眼差しで言った。
「自分は大丈夫、じゃとでも?」
「・・・・・・。」
「じゃが、実際、お前さんがこの家で、この老いぼれの話を聞いとるのは、船長絡みのことじゃ。・・・わしはさっき、船長なら戻って来ると言うたが。それは嘘じゃ。」
「えっ?!」
「たしかに、船長に会うたのは事実じゃし、この話をしたのも、また事実。じゃが、船長はこの話を聞いて、怒って出て行ってしもうた・・・。じゃから、ここには戻らんよ。」
「そんな・・・。」
「お前さんを呼び止めるために、ついた嘘じゃ。・・・お前さんは、それをまんまと信じ込んだ。・・・・・・これで、わしが本当は海賊狩りでもやっとったら?奥にわしの仲間もおるかもしれん。」
ここは元海賊で作られた島。・・・とは言え、油断があった。たしかに、お爺さんの言う通り、これが罠だっとして、私が捕まれば・・・・・・。
「そうなれば、お前さんの命も危ういが・・・。それ以上に、お前さんを大事に思っとる船長も危ういということじゃ。お前さんを人質にすれば、船長も手が出せんだろうし。」
・・・そういうことになる。自意識過剰かもしれないけど、ルフィなら、きっと私を守ってくれるはず。・・・ううん、ルフィが仲間を裏切るわけがないもの。たとえ、私に特別な想いが無くても、必ず・・・。だからこそ、私がルフィを好きなあまり、冷静な判断ができず、足を引っ張る可能性だってある。
「・・・・・・・・・。」
「すぐに答えを出すのは難しいじゃろう。・・・奥の部屋には、誰もおらんから。そこで、ゆっくり考えたらえぇ。」
それだけ言うと、お爺さんは立ち上がり、奥の部屋を開けて、自分はその向かいの部屋へ入って行った。
・・・本当に誰もいない。鍵はついてるけれど、中から開けられるような仕組みだし。何より、窓もある。
どうやら、私を閉じ込める、という罠ではないらしい。お爺さんは、本当に私たちの心配をしているみたいだった。
それだけに、さっきの言葉が胸に響いた。・・・大切だからこそ、離れるべきだという選択。・・・・・・・・・それが・・・最悪の事態を避ける、最善の策なのかもしれない・・・。
しばらくすると、ふいに部屋の戸を叩く音がした。
“コンコン”
「わしじゃ。・・・・・・ちょっと、えぇか?」
「はい・・・。」
「今、どう考えてるかは知らんが・・・。もし、一味を抜けようと思った時は、わしが何とかしてやるからな。その心配はいらんよ。」
お爺さんは部屋には入らず、ドア越しに、それだけを言って、どこかへ行ってしまった。たぶん、また自分の部屋へ戻ったのだと思う。
顔は見えなかったから、どんな表情でそう言ったのかはわからない。・・・だけど、声だけで判断すれば・・・それは、とても優しい声だった。
本当に・・・私、どうしよう・・・。
この島は、元海賊ばかり・・・。私が一味を抜けて暮らすには、何とも都合のいい島だ。
そんなことを考えて、少しずつ一味を抜ける決心をしようか・・・などと思いそうになったときだった。その考えを打ち消すように、外から大きな大きな声が聞こえてきた。
『!!!!!ここにいるんだろ?!!』
「・・・ルフィ・・・!」
思わず、部屋に座り込んでいた私も立ち上がってしまった。向かいの部屋のお爺さんも、慌てて出てくる音がした。
「ここで待ってなさい。わしが話をしてくる。」
お爺さんは、急いでそう言い、そこを立ち去った。その間にも、私を呼ぶルフィの声が何度も何度も聞こえていた。
『ー!!!!いるんだったら、返事しろー!!!!!』
今、ルフィに会ってしまえば、私は一味を抜けるという選択ができなくなってしまう。まだ、抜けると決めたわけじゃなかったけど・・・でも、会えば確実に、その選択肢は無くなる。考えられなくなる。だからこそ、冷静に考えるには・・・。
でも・・・、本当は・・・。ルフィの声が聞こえてしまったその瞬間、既にその選択肢は消えかけていた。
そう思ったとき、ルフィの声が聞こえなくなった。・・・どうやら、お爺さんが何か話してくれているみたいだ。
その間、私は考えた。本当に抜けるべきなのか、抜けずに仲間として船に戻るのか、それとも今まで通り・・・・・・。
“ドンドンドンドン・・・!”
少し早足で、誰かがこちらに向かって来る音がした。・・・強い音。怒っているのだろうか・・・?
「!!!」
「ルフィ・・・!」
「何してるんだ!!」
ドアの向こうから、ルフィが叫んでいる。・・・・・・そして、やっぱり怒っているみたいだ。
「お爺さんの話を聞いて・・・考えてた。」
「・・・抜けるのか。」
「ううん、まだ考え中だった。」
「・・・・・・・・・。ちょっとドアから離れてろ。」
さっきまでの怒鳴り声とは違い、音量は普通ぐらいで・・・。でも、明らかにいつもより低い声だった。
「ルフィ・・・?」
「いいから、離れるんだ。」
その声に負けて、私は大人しく従った。
「う、うん・・・。」
「・・・・・・ちゃんと離れたか?!」
「うん、離れたよ!」
“ドッ!・・・・・・バン!!”
ルフィが何をどうしたのかはわからない。ただ私は、家が少し揺れたように感じた後、ドアがさっきとは違う向きに開いてきたところを見ていた。そして、その先には・・・・・・。
「ルフィ・・・。」
1番会いたくて、1番会いたくなかった人の姿があった。私がその姿を確認すると、ルフィは強い足取りで、こちらに向かってきた。
「あの・・・!ルフィ・・・!」
そんなルフィに対し、何か言い訳をしなければと思ってしまい、私は慌てて彼を呼び止めた。それでも、ルフィは気にせず、こちらに近付いてきた。
・・・怒られる。そのことが怖かった。・・・・・・嫌われてしまうんじゃないだろうか。船から出て行ってもいいと言われてしまわないだろうか。と・・・。
結局、私に抜ける決意など出来るわけがなかったんだ。
「ルフィ・・・!」
もう1度だけ、彼の名を呼ぶ。すると、目の前でルフィが立ち止まった。・・・話を聞いてくれるんだろうか。
そう思ったときだった。
“ガバッ・・・!!”
「ル、ルフィ・・・?!」
ルフィが勢いよく、私を抱き締めた。その力は、とても強くて・・・。痛いとさえ感じてしまう程だった。
その状態で、ルフィから出た言葉は・・・・・・。
「爺さんに何を言われたのか、知らねぇけど・・・。お前が出て行く必要はねぇんだ、。お前はぜってぇオレが守る。それに、オレはお前がいないと、この先やっていけねぇんだ。」
私を慰めるような優しい声にも聞こえるし、つらさを我慢して少し苦しそうに言っているようにも聞こえた。・・・それほど、ルフィが真剣に想ってくれているというのがわかる言葉だった。
「ルフィ・・・。あのね・・・。私もルフィがいないと、やっていけない。」
「あぁ。」
「でもね、本当にこの先・・・、お爺さんの言う通り、私が足を引っ張らないかどうかは自信ない。今だって、こうして・・・。」
そこまで言うと、ルフィが私を解放した。・・・突き放されたのかと心配になる前に、ルフィが今度は私の両肩を持ち、目を合わせて言ってくれた。
「だったら、強くなればいい。オレもも。」
「・・・そんなに簡単になれるもんじゃないよ?」
「それでも、なるしかない。オレは絶対、誰一人欠けず、海賊王になるんだ。そこに、もいてくれなきゃ嫌だ。」
まるで子供の考えのような、それでいて当然のことのような、ルフィの発言に私は思わず笑ってしまった。
「うん、そうだね。・・・私も頑張る。」
「ありがとう。みんなで強くなろう。」
「うん。」
ルフィはお礼を言いながら、また私を抱き締めてくれた。・・・でも、違う。本当にお礼を言うべきなのは私だ。
だから、次は私がお礼を言おうとしたのに、先にルフィが私の耳元で囁いた。
「大好きだ、・・・。」
「ありがとう。私も大好きだよ、ルフィ。」
私の感謝の気持ちは、ちゃんと届いただろうか。今のルフィの言葉に対してだけ、お礼を言ったと思われていないだろうか。
・・・ううん。そんなことはない。きっと、ルフィならわかってくれるよね?それに、わかってくれていなかったとしても、この先、お礼を言う機会なんて、たくさんあるんだから・・・。
そんなことを考えていたら、ふと視線の先にお爺さんの姿を見つけた。
「全く・・・。ここはわしの家じゃぞ!好き勝手してくれおって・・・。今すぐ出て行け、海賊“共”!!」
お爺さんは強い口調でそう言ったけど・・・。きっと、これもお爺さんの優しさなんだろう。だって、“共”ってことは、私とルフィに出て行けと言っているということで・・・。私は、もうここに残らなくていいと言ってくれているんだ。
ありがとう、お爺さん。私たちは、お爺さんの忠告のおかげで、これから気をつけることができる。そして、あらためて私たちの絆を深めることができたと思う。
心の中でお爺さんにお礼を言うと、私はルフィと手をつなぎ、この家を出た。
もう迷わない。未来の海賊王の手を握り、私はそう誓った。
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終わりました、ルフィ夢!私の中で「ルフィ夢=超甘々」というイメージがあった所為か・・・。こんなに密着させる予定じゃなかったのに、いつの間にか・・・(汗)。まぁ、ルフィさんは無意識にイチャついてしまう感じが素敵だと、私は思います(笑)。
そもそも、なぜ慣れないルフィさんを書こうとしたのかと言いますと・・・。ある日の夢で、私がルフィさんとイチャイチャしてたのです・・・!私、サンジさんが好きなのに・・・(笑)。しかも、最初は「FF ]」のティーダとユウナだったのに・・・。金髪主人公→黒髪主人公、可愛いヒロイン→残念な管理人・・・(特に後者が)すごい変わりようで、すみません・・・(苦笑)。
まぁ、そんなわけで、その日の夢をネタに書いてみました!はい、調子に乗ってすみませんでしたー!!(滝汗)
('09/04/17)