次の土曜日も、日吉家の道場へと向かった。そして、また如月さんに、畳の敷かれた部屋へ案内してもらい、しばらくその風景を眺めていた。
その後、休憩に入り、今日は私から、外に行こうと誘い、庭に出た。
「・・・見ていて、暇じゃなかったか?」
「ううん。たしかに、ルールとか技とかは全くわかんないけど、すごく見入ったと言うより、魅入った。」
「・・・・・・使い方、間違ってるだろ。」
「まさに、そういう感じなんだって。」
日吉と合うのは、これで3回目。だけど、学校の友達よりとは、比べものにならないくらい、話していると思う。
「あ、そうそう、日吉。この前、いつかテニスするとか、しないとか話してたよね?」
「・・・そうだったな。」
「明日は、無理だけど、次の日曜日、しない?」
「明日は無理なのに、来週ならいいのか?」
「まぁね。・・・で、いい?あっ、でも、日吉の部活があるか。考えてなかった。」
「いや、日曜は無い。」
「あっ、そうなんだ〜。それじゃ、いい?」
「あぁ。」
私は、あまり人を誘わない。誘われたら、行くけれど。だけど、日吉には、私の方から、テニスやろう、と誘った。本当に気が合うんだな。
「私、あんまり人を誘わないんだ。・・・珍しいな。」
「自分で、珍しいとか言うなよ。」
「いや、自分だからこそ、わかるんだって。・・・でも、そんな私が誘った、日吉が珍しいのかもしれないね。」
「なんだ、それ。」
「まぁ、日吉とはよっぽど、気が合うみたい、っていうことだよ。」
そうして、今度は土曜日も日曜日も会えることになった。・・・本当に、こんな毎週会う約束をしているなんて、珍しい。
今日は、テニスをする予定だった。
「ありえないな。」
「まぁまぁ。今、電話したから。」
「、お前。昨日、俺にあんなに聞いてただろ。」
そう、昨日。日吉のことだから、忘れていると思って、何度も確認し、「覚えてる」と、若干怒り気味に言われた。(まぁ、その後、別の話で普通に話していたから、怒ってはいないだろう。)それなのに・・・。
「ラケットを忘れるなんて、ありえないだろ。今日は、何しに来たんだ?」
「だって、日吉の家に行く時は、いつも何も持っていなかったから、癖だよ。でも、ちゃんと電話して、小畠さんが届けてくれる、って。」
小畠さんとは、私の家で働いている人。まぁ、うちの家はお母さんが、食事も作ったり、掃除もしたりするけど、やっぱり、1人じゃ大変!って時に手伝ってくれている。そして、その小畠さんにラケットを持って来てもらえるようになった。
「そういう問題じゃない。・・・ったく、覚えていないのは、どっちだ。」
「本当にごめんなさい。忘れるつもりは、なかったんだよ?」
「当たり前だ。」
「・・・ごめんなさい。」
何度も謝ると、日吉はもういい、と言ってスタスタと歩いて行ってしまった。
「俺は、先に1人で打っておく。も、アップでもしておけ。」
そう言って、日吉は、家のコートの近くの壁で打ち始めた。・・・家の庭にコートがあるなんて、本当に、お父さんの言っていたとおり、立派な道場、いや立派な家だ。
パコン!パコン!
「すごっ・・・・・・。」
ただの壁打ちなのに、とんでもなく日吉は上手かった。・・・ただ、どこかが不自然だった。日吉も自分で納得できないらしく、何度か、何かを考えているような表情をしていた。
「やりにくい。着替えてくる。・・・って、まだ何もしてなかったのか。」
「いや、日吉、上手いなと思ってたら・・・。今から、やるよ。」
そして、日吉は家に入っていった。着替えるって、何に、だろう?まさか、古武術している時の服じゃないよね・・・?それだったら、驚きだ。・・・と言うか、余計やりにくそうだよ。・・・あっ。そろそろ、ストレッチしないと。
「あっ、日吉。」
ストレッチをしていると、日吉が出てきた。もちろん、古武術をしている時の和服ではなく、ジャージだった。
「・・・・・・それ、日吉の趣味?」
そう、そのジャージは上が水色っぽく、下は黒。ダサいとは思わないけど、好んでそれを着ようとは、思わない。しかも、日吉がこんな趣味だとは思えない。
「そんなわけないだろう。部活のジャージだ。」
「あぁ、ユニフォームか。・・・びっくりした。」
「・・・そんなに驚いたのか?」
「だって、そんな趣味なのか、と思って・・・。でも、学校のユニフォームにしては、お洒落なんじゃない?」
「その割には、かなり驚いてたけどな。」
「いや、でも、それを普通のお店で売ってても、買わないよ。学校のユニフォームにしては、ってことだよ。」
「はっきり言ったな。『買わない』って。」
「もう、いいでしょ!さ、私はアップの続きだ!」
そう言って、その話は終えた。・・・でも、本当に学校のユニフォームにしては、カワイイと思うな。・・・・・・買わないけど。そんなことを思いながら、私はストレッチの続きをし、日吉を見ていた。・・・・・・?!
「今の打ち方・・・。」
日吉は、さっきとは全くフォームの違う打ち方で、壁打ちをしだした。今回は、日吉も納得しているようだった。・・・たしかに、ボールの強さも全然違うけど、あのフォームは、なんだろう?どこかで見たことあるような・・・。でも、テニスでは、見たことない。じゃあ、なんだ?とにかく、私はそろそろ小畠さんが来るかもしれないと思い、外に出てみた。そして、日吉の家の前をランニングしながら、待った。
「さん。」
「小畠さん!本当にごめんなさい。」
「いいですよ。それより、さん。最近、楽しそうですね。」
「ん?そう?」
「えぇ。それでは、デート、頑張って下さいね。」
「な・・・なんで、そうなるの!」
そう言ったけど、小畠さんは微笑みながら、車に乗って帰ってしまった。・・・・・・そんな風に思われていたのか。・・・と、とにかく!早く戻らないと、かなり日吉を待たせているし。
「日吉!ごめん!そろそろ、やろうか?」
「あぁ。」
そうして、私達はテニスをし始めた。・・・しかし・・・・・・。
「ねぇ、日吉。・・・さっきの、は?」
「さっきの・・・?何の話だ?」
「さっき、違うフォームで壁打ちしてたじゃない。」
「・・・見ていたのか。」
日吉の表情が少し、引きつった。・・・見てはいけなかったのだろうか。でも、見るな、とは言っていなかったし・・・。
「ごめん、見たよ。」
「いや、謝らなくてもいいが。・・・変だ、とか思わなかったか。」
「変?そりゃ、普通ではないと思うけど、決してかっこ悪いとかは思ってない。むしろ、かっこよかった。だから、見たいんだけど。」
「そうか。」
そう、日吉は嬉しそうに言った。
「さっきのは、古武術を入れた、フォームなんだ。」
そう言って、日吉が説明をし始めた。
「あ!だから、見覚えがあったのか。」
「それで、このフォームを見た奴は、だいたい馬鹿にするんだ。」
そうか。それで、私がかっこよかった、と言って嬉しそうだったのか。
「フォームなんて、人の勝手よね。たしかに、汚いフォームはよくないけど。古武術は、立派な構えなんだから。・・・で、そのフォームでやってくれる?」
「あぁ、いいぜ。」
そして、続きを始めた。うん、ボールの強さも早さも、さっきと全然違う。それに、日吉自身もさっきと違う。随分と楽しそうにしている。
「やっぱり、男子には勝てないね〜!・・・それとも、私が弱いだけか?」
「そうでもない。・・・正直言って、ここまでやるとは、思っていなかった。」
「そう?それは、どうも。」
1セットマッチでやったけど、2−6で負けてしまった。まぁ、勝敗は気にしてなかったんだけど、ね。それにしても、日吉、上手い。・・・言い訳みたいに聞こえてしまうけど、本当に日吉は上手かった。たぶん、2ゲーム取れたのは、日吉がそこまで本気ではなかったからだ、と思う。
「ねぇ、日吉。今度からは、テニス、少し教えてくれない?」
「・・・俺は教えられるほど、上手くはない。」
「そんなことないよ。・・・・・・でも、人に教えてもらうだけが、上手くなる方法とは限らないし、これから、日吉との試合で、いろいろ学んでいくことにするよ。それに日吉は、付き合ってくれる?」
「あぁ。」
「ありがとね。」
そうして、その日は帰り、次の土曜日と日曜日も同じように、過ごした。
そして、その次の日曜日。私は言った。
「もっと、日吉とテニス、やりたいな〜。」
「・・・そうだな。」
日吉もそう思ってくれていたのか。
「でも、日吉は平日、忙しいでしょ?」
「いや、・・・水曜日なら部活、休みだ。」
「本当?じゃあ、水曜日もテニスやりたい!」
「お前はいいのかよ。」
・・・あ、そうか。私は暇じゃないって、前に言ったんだった。
「・・・いや、私も水曜は暇なの。よかった!って、日吉が良ければの話だけどね。」
「・・・・・・別にいい。」
「やった!じゃあ、毎週水曜日、やらない?」
「わかった。・・・ラケット、忘れるなよ。」
「もう、しつこいってば!今日は忘れてないでしょうが!」
そうして、私達は土・日・水に会うことになった。それからは、明日が待ちきれない、と毎日思っている気がする。
水曜日、私はラケットを忘れることなく(←ちょっと、根に持っている。)、ちゃんと日吉の家へ行った。
日吉の提案で、今日はストリートテニス場ですることになった。平日なので、ストリートテニス場は、私達以外誰もいなかった。
「日吉の読みは当たってたね。誰もいない。」
「平日の昼間から、こんな所でテニスしてる奴なんて、いないだろ。」
「ここにいる2人以外は、ね。これからも、平日は、ここにしようか。」
そんなことを言いながら、私達は思う存分テニスをした。
「疲れた〜。・・・お疲れ様。」
「あぁ。」
そう言って、私達はストリートテニス場の横の草むらに座った。その時、私はあれを見つけたのだった。・・・例のあれを。
「日吉、これ。なんだか、覚えてる?」
私は、雑草を指さして言った。
「・・・あぁ、これか。」
日吉は、しばらく考えていたけど、すぐに思い出したのか、少し笑いながら言った。
「思い出し笑いをしない。じゃあ、早速作りますか。」
そう、その雑草とは、お見合いの時に見つけた、笛が作れる草だった。
「日吉にも、教えてあげる。」
「・・・別にいい。」
「これをここで切るの。それで、こう折って・・・。」
「・・・・・・・・・。」
別にいい、とか言いながら、日吉は私の言ったように、草を切ったり、折ったりしていた。
「それで、こう吹くと・・・。」
ピー!!ピー!!
「ね?意外にきれいな音でしょ?」
「・・・そうだな。ちょっと驚いた。」
そう言って、日吉も笛を吹いた。
ピー!!ピー!!
「日吉、上手い!上手い!!」
私は、その後もその笛を ピー!!ピー!! と鳴らしていた。それを見ていた日吉が言った。
「楽しそうだな。」
そう言った日吉は、笑顔だったから、私は言い返した。
「日吉もね。」
すると、日吉は、否定せずに、少し笑って言った。
「そうだな。」
なんだか、日吉といると幸せだな、そう思った。・・・もっと、一緒にいたい、そんな思いが大きくなっていった。
「。・・・俺と付き合ってくれないか。」
1週間後の土曜日に、道場に行くと、そう言われた。
「俺、といると、すごく落ち着くし、楽しいし・・・、こんな気持ち、初めてで・・・。」
「うん、私も。日吉と、もっと、一緒にいたいって、最近、よく思ってた。・・・だから、私で良ければ、喜んで。」
「・・・そうか。」
そう言って、お互い少し黙った。・・・なんだか、恥ずかしかったから。そういえば、私達はお見合いが嫌いで、でもそのお見合いで出会った人と付き合って・・・、そう考えると、なんだか不思議だな。
「ね、日吉。私、お見合いしといて、よかったよ。本当は、断るつもりだったんだけど。・・・あ。」
そして、私は思い出した。
「どうした?」
お見合いというものは、婚約者になるためにするものだったのでは・・・。と言うことは・・・・・・。
「こうやって、私達が正式に付き合ったってことは、婚約者になるの?」
「・・・・・・正式に、って言う言葉はどうかと思うが、そうなんじゃないのか。」
「・・・そうか。え、え〜っと、これからも、よろしく。」
婚約者になった、と思うと、動揺して、私は変なことを口走っていた。
「クッ・・・。やっぱり、お前といると、おもしろい。」
日吉は、そう言って、笑った。そういう意味で、私といると、すごく落ち着くし、楽しいのか?!!そう言おうとしたけど、どうせ、また笑われると思ったから、やめておいた。
私達は、付き合った次の日も、普通にテニスをした。今までと、変わらずに。だけど、私の雰囲気が変わった、と周りの人に言われた。
「やはり、楽しそうですね、さん。」
「そう?・・・まぁ、そうかも。」
「何かあったのでは、ありませんか?」
そんなことを小畠さんに言われた。・・・どうして小畠さんは、こんなにも鋭いのだろう。
「。お母さんの言うこと、聞いておいてよかったでしょ?」
「お母さんの言ったことって?」
「お見合いのことよ。、お見合いをしてから、随分、変わったわ。」
「あぁ。・・・うん、まぁね。」
「だから、お父さんも勧めていたんだぞ。」
「はいはい、わかったって。」
でも、たしかに自分でも変わったかも、と思う。こんなに1人の人を思うのは、初めてだ。そして、この人だったら、何でも話せると、そう思ってしまう。私が、家族以外でこんな気持ちになったのは、一体、何年ぶりだろう。
そして、付き合ってから2度目となる、テニス。なんだか、日吉の様子が変だ。・・・こんな風にわかるのも、私が変わったと思う、1つだ。
「ねえ、日吉。どうしたの?何か、言いたそうな顔してるけど。」
「それは、こっちのセリフだ。・・・何か、隠してるだろ。」
付き合ってから、日にち的には4日ほどしか経っていないのに、もう危ない雰囲気か?
「別に隠してないし。」
「いや、ずっと前から、変だった。がテニスをしたい、と言った辺りからだ。」
「・・・・・・本当に、ずっと前ね。そんなの、忘れたわ。」
忘れていないし、日吉が何に対して言っているのかも、わかる。だけど、日吉には、関係のないこと。
「。一応、付き合ってるんだ。それくらい言ってくれ。」
・・・一応、ってなんだ。まぁ、いいけど。
「話してもいいけど、それに対して、何も言わないって、約束して。っていうか、それを言っても、普通でいてよ。」
「・・・わかった。」
そう言って、日吉は身構えていた。・・・おもしろい。とにかく、私は話し出した。そう、学校での私のことを。
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日吉とテニスをしてみたり、っていうか、本気な日吉とテニスをしてみたり、日吉が和服でテニスしているところを妄想してみたり。
完全に私の趣味です(笑)。すみません・・・!
それと。氷帝のジャージは可愛いと思っていますよ!(笑)
他の学校に比べたら、マシ・・・・・・いや!マシっていうか、何ていうか・・・。あの・・・、その・・・(汗)。
本当に、氷帝ジャージは可愛いです。他の学校はカッコイイと思うんです。
あ。上手く言えた(笑)。