「おめでとう。」
ただ、それだけを言いたくて――。









「・・・・・・・・・何やってんだ、。」

「しっ!今、話しかけないで・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・よし・・・。・・・・・・できたぁー!!!」

「・・・・・・・・・。」

「見て、日吉!すごくない?!」

「だから、何やってるって聞いてんだろ。」

「わかるでしょ?!・・・円を描くようにペンを重ねてたの!!」

「くだらない。」

「えぇー?!!これに、どれだけ苦労したと思ってるのよ?!そんなことがわからないから、日吉はそんなにも軽く・・・。」



そうやって、が文句を言っている内に、その塊は姿を崩した。



“ガシャン・・・コロコロ・・・”

「いーやぁー・・・!!!せっかく、頑張ったのに・・・・・・。」

「・・・・・・はぁ。」



すっかり日の暮れも早くなり、何かと忙しいと言われる『師走』。今の暦は、まさにそのときであった。しかし、ここの者たち――特にという少女に関してだが――は、忙しさとは一切無縁なようである。



「大体、お前、朝は朝で、部室のボールを積み上げたり、予備のラケットを重ねたり・・・。」

「ただ積み上げたり、重ねたりしてただけじゃないよ!!ボールはピラミッドっぽく積み上げ、ラケットは円を描くように重ねてたの!」

「そんなことは、どうだっていい。教室に来てからも、ノートを積み上げたり、さっきみたいにペンを積み上げたり・・・。」

「ノートはピラミッドっぽく、ペンは円を描くように!」

「だから、そんなことはどうでもいいって言ってるだろ。とにかく、なんで、そんなことばかりやってるんだと聞いている。」



そんなの行動は、現在の昼休みだけでなく、朝から続けられているようである。さらに、その行動は、どうやら、日吉には苛立つ原因でしかないようだ。たしかに、さきほども述べたが、今は12月。何かと慌しい時期に、側で訳のわからない行動をされる方は気分を損ねるだけだろう。・・・いや、このような時期でなくとも、理解できない行動は、人に不快感を与えるに違いない。



「次はどうしよう・・・。」

「おい、無視するな。」



返答としては、完全に日吉の言葉に無視をしていただったが、それ以後は何かを積み上げるようなことはしなかった。・・・・・・ただ単に、何を積み上げるのか、思いつかなかっただけだろうが。だが、何もしなくなったのは日吉にとって、幸いなこと・・・ではなかったようだ。が黙っている間、日吉は少し機嫌が悪くなっていた。しかし、日吉自身その理由には気付いていないようだった。

さて、時間は過ぎ、すでに部活動も終わる時刻になっていた。結局、はその後、何かを積み上げるようなことはしなかった。いつも以上に静かなだけだった。
日吉は、既に制服に着替え終え、そろそろ帰ろうと考えていた。しかし、いつになっても、隣の部屋からマネージャーのが出てくる気配が無い。いつもは、部誌を書き終えたが、そろそろ出てもいいか、と部員の着替えが終わっていることを確認する。だが、今日はその確認をする声が無かったのだ。



「なんで、今日に限って・・・。」



そう独りごちた日吉は、やっと自分がなぜ不機嫌なのかを理解した。・・・いや、本当はわかっていたはずだ。だからこそ、その後、日吉は自嘲気味にため息を吐き、また独り言を呟いたのだ。



「別に、今日だからって何もないんだが・・・。」



情けないとでも言うように、またため息を吐いた後、日吉は隣の部屋へ向かった。さすがに、この時間になっても出て来ようとしないが心配になったのだ。
・・・こんな解説をされているとわかれば、日吉はより不機嫌になるだろう。だが、の言動について「今日に限って・・・」と愚痴をこぼしている日吉は、間違いなく、“そう”なのだ。



「おい、入・・・・・・。」



入るぞ、そう言いながら、部屋に入ろうとした日吉は、思わず入り口で止まってしまった。なぜなら、そこには3つのカゴで作られた2段のピラミッドと、大量のテニスボールで作られた・・・・・・。



『HAPPY BIRTHDAY ! ! DEAR WAKASHI HIYOSHI ! !
 GEKOKUJO-TO- ! !』



という文字があったのだから。
ボールは床の材質の所為か、その場にピタリと止まっている。しかし、歩くことによって、風でも起こしてしまえば、それはすぐに壊れてしまいそうだった。だからこそ、日吉は立ち止まった。



「何やってんだよ、このバカ・・・。片付けんの、面倒だろうが・・・。」



そして、日吉は小声でそう言った。だが、その声は言葉とは裏腹に、少し嬉しそうなトーンであった。さらに、なぜ日吉は小声で言ったのかといえば、そのボールの傍でが眠っているからだ。どうやら、このボールを並べるのに神経を費やし、疲れてしまったようである。



「でも、こんな所で寝かせるのも・・・。おい、。」



いくら室内とは言え、今の季節は冬。さすがに、床に寝転んでいるを放置しておくほど、日吉も薄情ではない。・・・・・・もちろん、氷帝の――しかも、テニス部の――部室なのだから、室内の環境は素晴らしいのだが。それでも、日吉は念のため、の身体を気遣ったのだ。それに、時間も時間。こんな所で休むより、家に帰ってから休んだ方がいいと、日吉は瞬時に判断したからである。



「ん・・・・・・。ひよし・・・?あ。・・・日吉!!見た?!」

「あぁ、見た。これだけ散らかせば、片付けも大変だろうな。」

「むっ。大変じゃないし!ボールは、重ねてあるカゴの1つに充分入る量だもん。」

「・・・じゃあ、他の2つのカゴの分は?」

「あっち。」



が指した先は、普段ボールの入ったカゴを片付ける場所だった。そこには・・・・・・山のようにボールが入っているカゴがいくつか見られた。どうやら、残り2つのカゴの分のボールは、他のカゴに無理矢理入れられているようである。



「・・・やはり、片付けが面倒だろうな。」

「面倒じゃない!!それに、日吉に手伝ってもらおうなんて思ってませんからー。」

「大体、何の為に、カゴなんて重ねてんだよ。」

「もちろん、意味はあります!」

「どうせ、くだらないことだろ・・・。」

「はいはい、どうせくだらないですよ。ただ、日吉が下剋上をしていく様を表そうとしだだけだもんねー。」



子供の喧嘩のように、話すだったが、日吉はその喧嘩を買う気にはならなかった。こんなくだらないやり取りに付き合っていられないという理由もあったのだが、それ以上に・・・・・・。



「・・・それで、朝から何かしら積み上げていたのか?」

「うん、そうだけど?」



まるで、何でもないことだとでも言うように、はあっさりと肯定した。そんなを見て、日吉はため息を零した。



「あのなぁ・・・。お前、本当馬鹿だろう・・・。」

「何でそうなるのよ!私は日吉のことを想って・・・!」



文句を言うを遮って、日吉は言った。



「そんなことをする必要は無いんだよ。そんなことしなくたって、俺は・・・が祝ってくれるだけで充分満足なんだ。」



そう。日吉としては、が朝から自分のために考えていてくれたことが嬉しかったのだ。だからこそ、の喧嘩を売るような口調にも、普通に返事をしたのだ。
しかし、はそんなことには気付いていないようである。



「・・・・・・そうなの?」

「当たり前だ。いい加減気付きやがれ。」



口調は素っ気なかったが、明らかに日吉は照れているようだった。さすがに、もそれに気付き、だんだんニヤニヤとし始めた。・・・傍から見れば、やや異様な光景ではあるが。だが、今ここには彼らしか居ない。そんなことを気にする必要はない。だからこそ、は次の言葉も躊躇わずに口に出したのだった。



「それじゃあ・・・。お誕生日おめでとう、日吉!大好きだよ!」



日吉はやや躊躇したものの、やはり同じように言葉を返した。



「・・・俺もお前のことを特別に想っていなければ、こんなこと言わねぇよ。」



・・・・・・とは違い、あまり素直な言い方ではなかったが。それでも、そんな日吉の返事は、の口元をより緩めるには充分だった。



「ニヤけてねぇで、さっさと片付けるぞ。」

「はいはい・・・。って、日吉は手伝わなくていいってば。」

「2人でやった方が早い。それに・・・。」

「それに・・・?」

「何でもない。」

「えぇー?!」

「いいから、さっさとやれ。」



未だ、日吉には照れがあるらしく、「それに」に続く言葉は言わなかった。ただ、少し考えればわかるだろう。今日は日吉の誕生日。だからこそ、手伝いたいのだ。・・・・・・少しでも一緒に居るために。
さすがに、そんなことは言えないようで、結局、日吉がそれを説明することはなかった。しかし、日吉もこれだけは伝えたいと考え、口を開いた。



。」

「・・・ん?」

「ありがとう。」










「おめでとう。」
ただ、それだけで満たされる――。









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というわけで、お誕生日おめでとう日吉くん!頑張って、誕生日ネタを書いてみました!(笑)しかも、久々に第三者視点の文章です!・・・正直、難しいです;;
なので、あまり納得いっていない部分が・・・。折角の誕生日なのに・・・orz
来年はもっと頑張ろうと思います!!

今回、書いていて思ったのは、「えらく素直じゃない2人だなぁー」でした(笑)。別に、そうしようと思って書いたわけではなかったのですが、気付いたら、そうなっていました(汗)。ですが、意外とその辺は気に入ってたりします♪
・・・って、私だけですかね?(滝汗)自己満足で、すみません・・・(苦笑)。

('08/12/05)