高等部にお手伝いとして通う前に、今日は高等部と中等部の練習試合。私たち、中等部組がやや緊張した表情で、高等部の方へやって来た。
自分の実力で先輩たちに戦えるのかと不安に思っている人、日吉先輩みたいに先輩たちを越えようと思っている人、いろんな人がいるだろうけど、そんなみんなを応援したい。
・・・・・・とは言え、日吉先輩と試合になった人だけは例外になると思うけど。ごめんなさい、みんな!
でも、私の応援なんてあってもなくても、結局高等部の皆さんの全勝で練習試合は終わった。みんな、悔しそうではあるけど、どこか清々しい表情でもある。どうやら、何かを得たみたい。よかった。
「お疲れ。」
「あ!お疲れ様です、日吉先輩!」
「マネージャーも普段と違うから大変じゃないか?」
「いえ、そんなことないですよ。試合の方が1コートに入る人数が少ないですし。」
「そんな単純計算じゃないだろ?」
「単純計算ではないかもしれませんが、いつもより楽なのは事実です。」
「あまり無理するなよ?」
「大丈夫です、ありがとうございます。」
「そうか。」
そう言って、少し困ったような笑いをされながら、日吉先輩は私の頭を撫でてくれた。
・・・・・・って、わー!!!!
「ひ、日吉先輩?!」
「あぁ、悪い。これじゃ、子供扱いしているみたいだな。」
そう言いながら、日吉先輩は私の頭から手を退けた。・・・・・・今回ばかりは子供扱いでもよかった!!
「あ、いえ・・・・・・。少し驚いただけですので、子供扱いされただとか、そんな風には思いませんでした。」
「それなら・・・・・・。」
良かったとか、そういうことを日吉先輩は言おうとしたんだと思う。でも、そのとき、少し遠くから、私を呼ぶ部長の声が聞こえた。
「あ、はい!今、行きます!!・・・・・・すみません、日吉先輩。まだお話していたかったのですが・・・・・・。」
「いや・・・・・・。呼び止めたのは俺だからな。俺の方こそ、忙しいところ、悪かった。」
「いえ!ですから、本当に忙しくはないんです!なので、日吉先輩さえ良ければ、またお話させてください。」
「わかった。」
「ありがとうございます!それでは、失礼します。」
そして、私は急いで部長のもとへ行き、今日の試合結果を伝えた。
・・・・・・決して、こんなこと後で聞いてくれてもよかったじゃない!とか、そんなことは思ってませんからね、部長!全然、恨んでなんかいませんから・・・・・・!!
でも、その後、時間が合わなくて、日吉先輩と話せる機会は無かった。・・・・・・いいもん!私には水曜日があるから!!
こうして迎えた、水曜日。2度目の高等部。その門の前に・・・・・・。
「日吉先輩?」
「早かったな。」
「えっ?!もしかして、私を迎えに来てくださったんですか?」
「ありがたいことに、お前を迎えに行く役に任命されたからな。」
「そ、そんな・・・・・・!先輩の練習時間を割くことになりません?」
「心配するな。そのために、俺が選ばれたんだろう。先輩に、いつも早く来ている俺なら、迎えに行く時間もあるだろうから、と頼まれたからな。」
「でも・・・・・・。」
「だから、心配するなと言っただろ。」
日吉先輩の口調は、あくまで優しかった。でも、だからこそ、そんな先輩の迷惑になるようなことはしたくない。
「じゃ、じゃあ!走って行きましょう!」
そうすれば、日吉先輩の練習時間を削ることもないし、多少のアップにもなると思う。そう思っただけなのに、日吉先輩の顔が少し曇る。・・・・・・気のせいかな?
「・・・・・・わかった。そうしよう。」
「はい!」
それからダッシュで・・・・・・と言っても、日吉先輩は私がついて来られるペースで走ってくれていたから、きっとアップにもなってないんじゃないかな、と思う。
コートに着いたときも、日吉先輩は全く呼吸を乱していなかった。
「今日もお手間を取らせてしまい、すみませんでした。」
「いや・・・・・・。迎えのことに関しては、俺から先輩に相談しておく。」
「あ、はい!ありがとうございます。」
「あぁ・・・・・・、じゃあ、今日も宜しく。」
「はい、宜しくお願いします!」
私としては、そうやって気分良く、高等部での部活の手伝いを始めていた。
・・・・・・でも、その日、家に帰ると、お姉ちゃんの機嫌があまり良くなかった。悪くもないけど・・・・・・。
「・・・・・・、日吉くんに何言ったの?」
「へ?何が??」
お姉ちゃんが少し深刻な様子で話し始めたけど、私には何も思い当たることはなかった。
「今日、日吉くんが『迎えは俺ではなく、先輩の方がいいんじゃないでしょうか?』とか言ってきたんだけど?」
「え?迎えのこと?たしかに、日吉先輩には必要ないって話したけど・・・・・・。」
「なんで?」
「なんで、って・・・・・・。だって、日吉先輩の練習時間を少しでも無駄にしたくないから。」
「それ、日吉くんにちゃんと言った?」
「うん、言ったよ?」
「・・・・・・あー、もう、うん。わかった。私が何とかするわ。」
「?」
最後は呆れるように苦笑しながら、でも、どこか楽しげに、お姉ちゃんはそう言った。
そして、その次の週。門の前に。
「ひ、日吉先輩?!」
「来たか。」
「え、あ、はい・・・・・・。で、でも、どうして・・・・・・。」
「お前は、俺の練習を邪魔したくないから、迎えは必要ないと言っていたな?」
「は、はい・・・・・・。」
「なら、俺でなく、誰であっても迎えは必要ないと考える、ということか?」
「はい、そうですね。もう道も覚えましたし・・・・・・。」
「そういうことじゃない。」
少しだけ強い口調にドキリとする。・・・・・・何だか、昔の、ちょっぴり怖かった日吉先輩を思い出した。
「学校内とは言え、何も起こらないとは限らない。だから、誰も迎えに行かない、という選択肢は無い。その中で、最も早く部活へ来る俺が、お前を迎えに行くことが最善策だと、先輩はおっしゃっていた。」
「で、ですが・・・・・・。」
「それと、前にも言った通り、俺は迷惑などと思っていない。むしろ、どちらかと言えば、その・・・・・・楽しみにしている方だ。」
「え・・・・・・。」
「だから、何も気にするな。いいな?」
そう言い切った日吉先輩は、いつもの優しい先輩だった。
いや、でも!別の意味で気になることがあるんですけど!!
だ、だって・・・・・・。私を迎えに来てくれることを楽しみにしてる、って・・・・・・。
そんなこと言われたら、断れるわけないじゃないですかー!!!
「わ、わかりました。では、もう何も言いません。」
「・・・・・・そうか。」
「ただ、もう一つだけ・・・・・・。」
「何だ?」
恥ずかしいけれど。日吉先輩がここまで言ってくれたんだ。だから・・・・・・。
「本音を言うと、日吉先輩に来ていただけて、とても嬉しいです。」
「・・・・・・それなら、最初から、そう言え。」
日吉先輩は微笑んで、私の頭を軽く小突いた。
「はい、すみません。」
きっとニヤけきっているであろう顔で、私は謝った。
だって、日吉先輩と近づけたみたいで嬉しかったんだもん。仕方ない。
こうして、私の出迎え問題(?)は、無事解決した。
それなのに。
「あれ?忍足先輩?」
次の週、私を出迎えてくれたのは忍足先輩だった。
「すまんなー、日吉やなくて。」
「い、いえ!そんな!で、でも、どうして忍足先輩が?」
まさか・・・・・・。やっぱり、迷惑だった、とか?!それとも、今日、日吉先輩はお休みだったり?!いやいや、ただ、委員会のお仕事とかがあるだけかもしれないし・・・・・・。
「今日は、俺のクラスのHRが早よ終わったから、ってだけや。別に、日吉が行きたなかった、とか、そないな理由やないから安心しい。」
「そ、そうでしたか・・・・・・。」
忍足先輩の言葉に一安心する。・・・・・・って、あれ?なんか、微妙に心を読まれてるような気がしないでもないけど。うん、気のせい、ってことで!
「むしろ、日吉の奴も楽しみにしとるぐらいやし、あとで、なんで忍足先輩が、とか言われるやろうな〜。あるいは、ちゃんに、忍足先輩に変なこと言われへんかったか、とか聞いてきそうや。」
日吉先輩が楽しみに・・・・・・。それは、私も直接、日吉先輩から聞いた。だけど、別の人から聞いた方が、本当にそうなんだ、って思えて、余計に嬉しくなる。
でも、今は忍足先輩の前。顔に出さないように、顔に出さないように・・・・・・。
「なんや、嬉しそうやな、ちゃん。」
は、早い!!やっぱり、忍足先輩、心読めるんですか?!
「そりゃ、そうやな。ちゃんも、楽しみにしとるもんな〜?」
「お、忍足先輩・・・・・・!」
「そやけど、俺らかて、ちゃんに会えるんは楽しみにしてるんやけどなー。」
「私だってそうですよ!」
「でも、まぁ、ここは日吉に譲っとかんとな。」
「それって、どういう・・・・・・。」
「悪いけど、どういう意味かは、自分で考えてな?」
忍足先輩が優しく微笑む。・・・・・・またしても、私の考えを読んだかのような返事だったけど。そこは、もう置いておこう。
それより、日吉先輩に譲っておく、ってどういうことだろう?そこまで日吉先輩が、私の出迎えを喜んでくれてる、なんてことは・・・・・・ないよね?そうだと嬉しいけど!!
・・・・・・もしかして。さっきの忍足先輩の反応からして、やっぱり私の気持ちがバレてるってこと?!それで、私のためを思って、日吉先輩に出迎えの役を譲るべき、って気を遣ってもらってるのかも。
とか、いろいろ考えてたら、いつの間にか、部室近くまで来ていた。
「おう、!・・・・・・って、侑士?あれ、日吉は?」
そこへ、ちょうど向日先輩がやって来て、忍足先輩は私にした説明と同じことを話す。
それを聞き終えた向日先輩の反応は・・・・・・。
「――マジかよ!ズリィぞ、侑士!!」
「そう言われてもなぁー。」
「じゃあ、俺も次は早く終わらして、迎えに行く!」
「いやいや、岳人がどないかできることでもないやろ?」
「いや、何とかする!」
きっと冗談なんだろうけど、ここまで言ってもらえると何だか嬉しい。
「あれ?ちゃん、もう来てたの?」
そこに、鳳先輩や他の先輩たちもやって来て、忍足先輩と向日先輩が説明をしてくれた。
「――で、肝心の日吉は?」
最後に、滝先輩がそう言いながら、鳳先輩と樺地先輩の方を見た。
・・・・・・そういえば、まだ日吉先輩、来てないんだよね・・・・・・。やっぱり、休み、とか??
「たぶん、HRが長引いてるだけだと思いますよ。」
「ウス。」
「だから、もうすぐ・・・・・・って、あれかな?」
鳳先輩の言葉に、私もそっちを向く。すると、日吉先輩の走って来る姿が見えた。
・・・・・・よかった。先輩、休みじゃなくて。
もちろん、日吉先輩に会うためだけに来てる、ってわけじゃないけど。やっぱり、会えないのは寂しいもん。
「すみません、遅くなりました・・・・・・。って、もう来てたのか?」
「あ、はい。今日は忍足先輩が迎えに来てくださって・・・・・・。」
「・・・・・・そうか。」
それだけ言うと、日吉先輩は着替えのため、部室へ向かった。他の先輩も、それに続く。
その後、普通に部活を続けていたけれど、空き時間、不意に後ろから声をかけられた。
「。」
「ひ、日吉先輩っ!」
「・・・・・・悪い、驚かせたか?」
「あ、いえ、私の方こそ、大きな声を出してしまって、すみません。」
「いや・・・・・・。」
そりゃ、後ろから声をかけられたら、誰だって多少はビックリすると思う。でも、それが好きな人の声だったから、少し私が驚きすぎただけ。だから、日吉先輩は何も悪くない。むしろ、声をかけてもらえて嬉しい!
なんて、今にもニヤけそうになっている私とは対照的に、日吉先輩の表情はどこか厳しい。
「あの・・・・・・日吉先輩?」
「・・・・・・今日は悪かったな。この間、俺が迎えに行くと話したばかりなのに。」
「いえ、そんなこと!」
「それで・・・・・・忍足先輩が迎えに来た、と言ってたが、なぜ忍足先輩が?」
「HRが早く終わったとおっしゃってました。」
「そうか・・・・・・。それと、あの人、何か言ってなかったか?」
「え?何か、とは・・・・・・?」
そう言った後、ふと忍足先輩の言葉を思い出す。
・・・・・・そういえば。どうして忍足先輩が、などと言われるだろう。とか。忍足先輩に変なことを言われなかったか、などと聞かれそうだ。とか。
何だか、忍足先輩の予想が的中してるみたい・・・・・・。
「何か思い当たることがあるようだな・・・・・・?」
「あ、いえ・・・・・・大したことではないんですけど。」
「何でもいいから話してくれ。」
「は、はい。その・・・・・・。どうして忍足先輩が迎えに来たのか、忍足先輩に変なことを言われなかったか、といったことを日吉先輩がおっしゃるのではないか、と・・・・・・。」
「ちっ。余計なことを・・・・・・。」
「・・・・・・ふふ。」
失礼だけど。ちょっと日吉先輩が可愛いなーって思って。思わず、笑ってしまった。
だって、日吉先輩って、私にはいつも年上って感じの態度で、こういうところ、あまり見せてくれないんだもん。
でも、やっぱり好きな人のいろんな姿を見たいから。先輩の少し拗ねたような反応が見れて嬉しい。
「・・・・・・とにかく。来週は俺が迎えに行く。」
私に笑われたことが気恥ずかしいみたいで、日吉先輩は少し目をそらしながら、そう言った。
やっぱり、何だか嬉しい。
「はい!お願いしますね!」
だから、笑顔でそう返した。
それなのに。またしても、迎えに来たのは日吉先輩じゃなかった。
「よう!」
「向日先輩?!」
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あぁ、またしても長くなった!(笑)でも、書いてる私は楽しいです(←)。若干、日吉くんが可愛くなりすぎてる感もありますが;;
あと、今回書いていて思ったのは。「鳳先輩」って書きにくい!なぜか、すぐ「鳳くん」って思い浮かべてしまいます(笑)。日吉くん&樺地くんも同じ難易度のはずなのに、なぜか鳳くんが1番悩みましたね〜。不思議です(笑)。
('12/11/21)